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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)953号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、原告が角丸証券と日本勧業証券株式会社とが昭和四二年一一月二八日合併により新設された株式会社であること。角丸証券が昭和三八、九年当時証券取引法定の有価証券の売買、売買の媒介、取次又は代理その他の証券業務を営む会社であり大阪市に支店を設けて、ここに常務取締役中田久夫を、堺市に営業所を設けてここに外務員楠本富夫を配していたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、<証拠>を総合すると原告山本永治は、昭和三八年一二月一日頃に金二二五万円を、同月三〇日頃に金一五〇万円をいずれも返還期日を一年後利息を年一割二分の約定のもとに訴外楠本に交付し、原告山本ユキノは同三九年九月六日頃に金二五〇万円を金二〇〇万円と金五〇万円の二口に分けいずれも返還期日を一月後、利息を年一割二分の約定のもとに訴外山本に交付し、いずれもその際訴外山本は角丸証券堺営業所用箋と印刷記載されている用紙を用いて原告等に宛て預り証と題する書面を作成しその「受取人橋本富夫」の雇書に「角丸証券堺」と付記してこれをそれぞれ原告等に交付したが同訴外人は右各金員をいずれも角丸証券に入金しなかつた各事実が認められ、<証拠判断略>。

被告は右各金員は原告等と楠本富夫間の個人的な預託関係であると主張するが前記のとおり角丸証券の外務員である楠本富夫が角丸証券の用紙を用いて預り証を作成している事実に徴すると代理権の有無は別として本件金員は原告等と角丸証券の代理人である楠本富夫との間の金銭預託関係であると認定するのが相当であり、その他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

三、原告等は訴外楠本の右金銭の各預り行為は角丸証券を代理する行為である旨主張するのでこの点について判断する。角丸証券が証券取引法に定める証券業者であり訴外楠本が昭和三八、九年頃角丸証券の同法上の外務員であつた事実は当事者間に争いがない。そして証券業者の外務員はその所属する証券業者の個別的な明示又は黙示の授権を受けなくても一般に有価証券の売買その他の取引に関し証券業者を代理する権限を有するものであるが、もとより証券業者の営業の範囲を超える行為については当該証券業者の代理行為としての効力を生じないものというべきである。ところで査証券業者の営業の範囲は、兼業を禁止され、有価証券の売買、売買の媒介、取次又は代理、有価証券市場における売買取引の委での媒介、取次又は代理、有価証券の引受、売出、募集又は売出の取扱の業務及びこれに附随又は関連する業務に限られるところ<証拠>によれば、証券業者が不特定多数の顧客から利息を付して返還する約束のもとに割引債、国債、社債等の債券を預り、これらの債券を担保に入れて有価証券の自己売買の資金を作るいわゆる運用預りの業務及び、顧客の請求あり次第返還する約束のもとに顧客に対するサービスとして株券その他の有価証券を無償で預るいわゆる保護預りの業務はいずれも証券業者の附随的又は関連する業務として存在するが、証券業者が利息を付して返還する約束のもとに金銭を預るが如き業務はいわゆる預金業務であつて、かかる業務は証券業界に存在しないことが認められ、<証拠判断略>。

そうすると訴外楠本の本件各金銭預り行為は、証券取引法にいわゆる有価証券の売買その他の取引に関するものとはいい得ず訴外楠本が角丸証券の代理人としてなした本件金銭預託契約は角丸証券の営業の範囲を超えるものであつて、角丸証券の代理行為としての効力を生じないものといわねばならない。

従つて原告らの右主張は理由がない。

四、次に原告等は角丸証券の使用者責任を主張するのでこの点について判断する。

訴外楠本が角丸証券の被用者であることは当当事者間に争いがなく、前記認定のとおり同訴外人が原告両名からそれぞれ金三七五万円及び金二五〇万円を預りながらこれを角丸証券に入金せず原告両名にそれぞれ右同額の損害を与えたことは同訴外人の原告等に対する不法行為であることは明らかである。そして<証拠>を総合すると楠本富夫は証券業者たる角丸証券の外務員であつて株式、債券、投資信託などの売買の勧誘をなし、委託注文を受けその取引に関し顧客との間で証券や金銭の受渡しをするものであり、昭和三八年以前から原告山本ユキノとの間で株券、債権等の売買の勧誘、取次等の業務を行いこれに附随して証券や金銭の受渡しをなしていたこと、前記各金員はかかる勧誘をなすにあたり預託契約をなしたものと認められこれを覆えすに足る証拠はない。

そうすると楠本富夫が原告等から前記各金員を預つた行為は角丸証券の営業に属する勧誘業務の執行に付きなしたものであるから角丸証券の事業の執行につきなしたものというべきである。

次に被告は利払いの約束のもとに金銭を預ることは角丸証券の営業の範囲外であり訴外楠本富夫の右金銭預り行為は角丸証券の事業の執行につきなされたものではないと主張し、利払いの約束のもとに金銭を預る行為が角丸証券の営業の範囲に属しないことは前判示のとおりであるが使用者責任は被用者の不法行為によより損害を受けた被害者救済と、被用者の行為によつてそれだけ使用者の社会的活動が拡張されているところにその責任の根拠が求められるのであり客観的外観的に事業の範囲内と認められれば、使用者たる会社の責任の根拠としての事業の執行につきなされたものと解すべきである。ところで前判示のとおり、楠本富夫は前記各金員を利払の約束のもとに預り角丸証券楠本富夫を受取人とする預り証を作成し原告等に交付したものであり、前記各証人の証言によると外務員は角丸証券の営業に属する有価証券、投資信託等の取引に際し現金の受渡しをなし、正規の預り証を発行するほかメモ用紙などに預つた旨を書いて渡して帰る場合もあることが認められ右認定を覆えすに足る証拠はない。そうすると楠本富夫が本件各金員を預つて預り証を作成交付した行為はかかる場合と客観的には区別がつき難く、外形的には角丸証券の事業の執行につきなしたものと認められる。そうすると原告等の使用者責任を求める右主張は理由がある。

五、被告は、原告等が角丸証券との間で別に正規の取引もしていたのであるから角丸証券の業務中には利払の約束のもとに金銭を預る如きものは存しないことを知らなかつたこと。正規の預り証の存することを知りながらその交付を受けず金員を交付したもので重大な過失があるので過失相殺すべき旨主張するのでこの点について判断する。

<証拠>を総合すると、原告山本永治は訴外楠本に本件金員を預けるまで角丸証券とは取引はなかつたこと、原告山本ユキノは昭和三六年頃から角丸証券と取引があつたが両者間の関係は通常の顧客関係に留まるものであつたこと、原告山本ユキノは正規の預り証の如何なるものであるかを知つていたことが認められ右認定に反する証拠はない。そうすると顧客の一人にすぎない原告山本ユキノが角丸証券と取引があつたからといつて角丸証券の業務中に利払の約束のもとに一般より金銭を預る行為が存在しないことを知らなかつたことにつき同原告に過失があるということはできない。

原告等は前判示のとおり角丸証券堺営業所の用箋を使用した預り証の交付を受けたものであり、原告等がこれを信用したとしても止むを得ないところであり、<証拠>によれば証券業者は顧客に対し、仮り預り証は間違いのもとになるから必ず正規の預り証と引き換えるよう店頭掲示や正規の預り証の見本の送付等により周知の方法をとつていることが認められるから証券業界においては仮り預り証による証券、金銭の授受もそれ程異例に属しないことが推認されること、その他本件口頭弁論にあらわれた全ての事情を斟酌しても原告等に相殺するに足る過失があるものとは認められない。

(北浦憲二)

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